蜂のこと その26

●日本ミツバチと伝統養蜂

わたしたちが食べている蜂蜜はそのほとんどが西洋ミツバチから採ったものです。ただ、対馬、熊野、伊那などに代表される地域では日本にもともといる在来種、日本ミツバチから採った色の濃い蜂蜜を食べることがあるようです。少しづつですが、ミツバチのことを科学的な側面から、あるいは民俗学的な側面から書かれている文献を読んでいて、この頃日本ミツバチのすばらしさにひそかに憧れ、庭観察で見つけると「今日も来てくれたね」と嬉しくなるのです。なにがそんなにすごいのだろうか?
日本ミツバチのことが初めて文献の中にあらわれたのは、『日本書紀』で「百済の太子余豊、ミツバチの房四枚をもって三輪山に放ち飼う。しかれどもついに蕃息らず」と記録されているといいます。
日本ミツバチは養蜂が難しいともいわれます。体は西洋ミツバチよりも少し小さめで色は黒っぽい感じがします。山奥の大木や古木の洞などに巣をつくり、主には樹木に咲く花を蜜源として生きているといいます。こうして山に暮らすミツバチを林業などを営む山岳地域の人々は生活と共にその生態を知り、それぞれの地域でそれぞれの方法で趣味のような感覚で飼う伝統的な風習があることを知りました。
温暖な気候の地域ではなんとなくイメージもわきますが、実は、2005年の春に訪れた岩手県でもこうした伝統養蜂があることを知りました。旅の最後に川井村北上民俗資料館に立ち寄りました。この北上に残る様々な人の営みと密接に関係する民具には驚きました。冬の寒さは厳しく氷点下15度ぐらいまで下がる日もあると聞きました。こんなところでも日本ミツバチとの関係があることを民具を見て知りました。この地域では日本ミツバチのことを「ヤマバチ」と呼ぶことが多いそうです。これに対して、西洋ミツバチのことは「カイバチ」と呼ぶようです。残念ながら、今回、川井村在住の方に聞いてはいたのですが、遠野で目撃することができなかった巣箱があります。日本ミツバチを飼う巣箱に自然木を利用していているといいます。真ん中に空洞をつくり屋根をつけたようなものが庭先によく置いてあるというのです。こうして、日本ミツバチの分封群を待つのだそうです。いわゆる、四角い箱形の巣箱を作ることもあるのですが、自然木で何度か蜂が住んだことのある巣の方が蜂が入りやすいのだそうです。

遠野市立博物館の宇野理恵子さんの文献によれば、山から来るヤマバチの分封群が設置した巣箱に入りやすい条件があると書いてありました。これは、実際に遠野で日本ミツバチの養蜂経験をされた方の話しから調査を進めた資料です。
・風の当たらないところ
・西風を止めるようなガケのところ
・暑すぎないところ
・大木のあるところ
・地面に置くと木が腐るので少し間隔をあけること
・入口は東へ向けること

ミツバチは飛び立ちやすいところを好むそうです。それは西洋ミツバチの飼い方を見ていてもそう思います。わたしが見学をさせていただいている養蜂園では滑走路のようなものをちゃんと巣箱の入口にとりつけてあるのを観察して気がついていました。重たい蜜や花粉団子をつけて戻って来るわけですから着地もしやすいというのも大事なような気がします。
遠野地方では、あまり人が日本ミツバチの生活をいじらないで、できるだけ自然にまかせ放任主義で飼う傾向が強いということが書かれていました。これはすばらしいことだと思います。巣が気に入らないとすぐにどこかへ逃げ出して行ってしまう日本ミツバチはあまり管理された状態よりは自立型なのだと思います。それだけに、人はその生態を熟知して必要な時だけ手をさしのべることができないと共生はできないデリケイトな種なのだと思います。つまり、人間とミツバチの関係がより自然であるということだと思います。そして、人間ができることはできるだけ、ミツバチの好きな環境を維持してやることなのだと思います。伝統的な養蜂には、そうした長い付き合いや経験の積み重ねから生まれた知恵とか技術が凝縮されているように思います。