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2005年07月31日
夕涼みの少女
小さな家の二階の窓辺に女の子がよりそって涼んでいました。
なにをするでもなく、考えるのでもなく、窓辺の風にあたっているのがいちばん居心地がよかったからです。黙っていても天体は動いてくれて夕闇の線が消えたころ、いちばん星が出るからです。そうするとコウモリの目がときおり光ったり、近所の猫の目が輝いたり、虫が光りの跡を描いたりするからです。
やがて、窓辺に銀色の糸が一本するすると垂れてきて、ここにも慕情を隠せない一匹の蜘蛛が風に揺られています。
ぐんと辺りが静まりかえったころ、木陰の森のむこうの方にずん、ずん、ずんと昇る月が見えてきました。まんまるに満ちたひときわ大きな月の光につつまれて女の子はにっこり微笑んでなげキッスを送ります。
どこからともなく優しいギターの音が今晩はエリック・サティを運んできました。
“bravo!”女の子はそう呟きました。
posted: mitsubako: on 18:46PM
2005年07月19日
ある家族の残像
裸ん坊の女の子がお父さんとお母さんと手と手をつないで真ん中に、夕暮れの海のお散歩。
空も 雲も 砂浜も じっとしている岩も 打ちよせる波も 浜辺に咲き乱れるカンナの群生も夕刻色にどんどん染まっていく。潮が満ちてきて、ぼーっと立ちつくすわたしたちをすい込むよ。不透明で不純物がつまった海水が どどん としぶきをあげて打ってくる。
砂浜はきらきら焼きついたオレンジに輝きだして、波の跡を残しては消え、残しては消えている。
裸ん坊の女の子はしっかりと砂浜に足をつけて、どんどんどんって跳ねてみる。お父さんもやってみる。それからお父さんは白い泡の波に向かっていった。
やさしいロングスカートの裾をもったお母さんと女の子は手をつなぎながら波際をしばらく歩いていた。体を海に浸したお父さんは、今度は女の子をだっこして少しだけ大きな波に体を触れさせてあげたよ。女の子は大喜びの笑い顔。
お父さんと女の子が砂浜で夕日色になって遊んでいるころ、お母さんは波の中に足を入れはじめた。ひざまでつかっているうちに、波しぶきでスカートが濡れる。お母さんは体全体で海を感じはじめた。
わたしたちは、この光景の瞬間を見逃してはいなかった。そしてひとりの美しい女性の姿をそこに見た。
帰るころにはわたしたちはこの家族の光景がとても好きになっていた。
posted: mitsubako: on 18:59PM
2005年07月15日
赤い砂
カチーナドールに憧れて、厚紙で動くカチーナを2つ作ってダンスのコマドリをして遊んだことがあります。そのタイトルが『赤い砂』。
カチーナ信仰はプエブロ・インディオが主に雨の精霊を呼ぶ儀式としてアメリカ先住民の間に起源したものといわれています。なかでもとりわけホピ族の神話や人形についての考古学的な研究は1870年代末にかけて発見され、その後、西洋の芸術家や詩人たちに大きな影響を与えてきました。
今日は作家ホルスト・アンテスが収集をしていた中から79点のカチーナ・ドールを神奈川県立近代美術館葉山に見に行きました。カチーナドールはハヒロハコヤナギの根の部分を原木としていて、ボディを彫ってから、赤土色や黒や緑など鮮やかな色どりに着色をして羽根や布、植物で飾られています。アニメーションの原形と同じようにその象ったものに息吹を吹き込むと精霊がやどり守護神の象徴となるものです。ズニ族のカチーナも陳列されていました。彼らのカチーナは両腕が動くように作られているのだそうです。
ホピの世界観は、上方に生を営むもの、下方に死後の世界とふたつで構成されていて、調和が保たれることが理想とされてきました。けれども人間の悪い行いで混乱が起き、フィリップ・グラスの作品ともなった調和なき世界=コヤニスカッティとなってしまったのです。守護神は人間に太陽と月を与え、トウモロコシの栽培を教えました。形状や色の異なるトウモロコシの実を選ぶことで、言語が異なる種族が生まれて、ホピ族は短いトウモロコシを選び簡素で平穏な生活を営むことになったという伝承があるそうです。
カチーナの中にはまるで、秋田のナマハゲのような役割のものがありました。そしてもうひとつおもしろかったのは、ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじのような形状をしたカチーナがあって「アヤカチーナ」というのです。Ayaは発芽や発育というような意味合いがあるようで4月ごろの儀式でかけっこをするカチーナなのだそうです。肝心のホルスト・アンテスの作品よりは、カチーナドールに魅せられて去りがたい展覧会でした。
わたしがカチーナドールを知ったきっかけは亡くなられた猪熊弦一郎さんのおもちゃ箱。そしてサンフランシスコでZUNI Cafeというのがあったはずで、ZUNIという音とか文字の並びが印象的で調べたらズニ族のことだったという記憶があります。
思いがけない遠い記憶がこうしていつか出会って線になる、そんな今日でした。
posted: mitsubako: on 18:49PM