蜂群崩壊症候群からBrooklynへ

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蜂群崩壊症候群が世界各地で報じられてから何年にもなる。みつばち群が跡形もなく突然に消えてしまう不思議な現象だ。その要因は携帯電話の電波や蜜源の不足、自然環境破壊などとさまざまに論じられてきたが、明確な原因は不明とされている。そのどれもが原因のひとつだと言えばその通りだ。人が地球に生きている以上、光、水、空気、土などあらゆる汚染を引き起こし環境破壊をしているのは事実だから。
遅ればせながら、7月の上旬、銀座のみつばちプロジェクトの一環で、養蜂講座に参加した。参加前に必読書に紹介されていた『ハチはなぜ大量死したのか』(ローワン・ジェイコブセン/文藝春秋)をようやく手にするきっかけとなった。
数年前、日頃からお世話になっている養蜂家から、蜂群崩壊症候群はネオニコチノイドという農薬に含まれる成分が関係していると聞いていた。日本ではこの薬品の使用が許されている。みつばちはいずれにしても、農薬で死ぬ。この薬品が含まれた農薬を散布すると、効果はジワジワと浸透して含まれていない農薬よりも持続性にたけているという。除草剤や殺虫剤など、家庭で一般的に使用される物にもこの成分が含まれている。害虫駆除には便利とされているネオニコチノイドがたとえ含まれていなかったとしても、害虫駆除の薬品は通常、害虫以外のものにも効いてしまうのはもう誰もが周知のことだ。幼い頃、普段目にしていたような昆虫類を最近同じ土地で見かけるのは稀になった。それだけわたしたちは昆虫のいない世界に今暮らしていることを自覚したい。
『ハチはなぜ大量死したのか』にはネオニコチノイドがどういう性質を持った薬品か、そして北米の養蜂業界のビジネスにどのような影響をおよぼしているかが書かれていた。ミツバチという家畜はいつの間にか、世界的に衰退の途をたどることになった。夏にこの本を読み終えて、わたしは愕然とした。直感的に「手遅れかも」とさえ感じた。
昆虫や野鳥が果実や野菜の受粉に一体どれだけの働きをしているだろう。ポリネーションということばをご存知だろうか。昆虫ほどすぐれた受粉媒介者はこの世の中にいない。ミツバチは蜜源を見つけると群に伝達し、花が旬のうちに何度も来訪する性質を利用して、アーモンドの生産を誇る北米西海外では、花の開花期が来る直前に膨大な数の蜂箱が貸し出される。
北米では、蜂蜜の生産より、みつばちのすぐれた花粉交配の働きを利用したみつばちレンタル業で、養蜂ビジネスを成立させることが主流になった。アーモンド大農場とミツバチの関係は、一見、自然の理に叶った互いの性質の良いとこ取りの事業に見受けられる。ところが、それは本来の健康なミツバチの繁殖に、大きなストレスを与えるものだった。ミツバチの巣箱のサイクルは春先から産卵が徐々に増え、働き蜂の数は蜜源が豊富な季節に合わせて増大する。持続的に次世代に命を受け渡すために寒くて食糧の少ない冬に向っては蜂の数を減らし、ミツバチ自身の寿命も蜜源が豊富で巣と蜜源を何往復もする活発な頃に比べると数ヶ月も長くなる。フル稼働期のミツバチの寿命は約20日から30日ぐらいだ。寒い時期は貯蔵した蜜をエサに暖かくなるまで最小限の生活を巣箱の中で過ごし、また暖かい春に向って働き蜂の数を増やすのだ。
アーモンド農園では、花の短い受粉期に、ミツバチの通常のサイクルよりも少し早く蜂の数を全盛期にしなければ役立たない。人の都合にあわせてミツバチの巣箱のサイクルを狂わせ、レンタルに出したり、自然豊かに見える農村地帯で非常に強い農薬が長期にわたり浸透し、その農薬が小さなミツバチの神経を侵し続けたとしたら、ミツバチの生態に影響が起きないわけがない。ミツバチは固体の役割と同時に群にひとつの意志を持った生き物だから、こうした複合的な要因が重なり、絶妙なバランスで存続していた蜂の秩序を狂わせると、蜂群全体の崩壊につながる。だからと言って、みつばち好きのわたしが、この事態に対してみつばちだけを中心に保護活動をすればいいかというと、それも人のエゴイスティックな考え方にすぎない。みつばちを飼うのにやっかいなスズメバチやアリ、ゴキブリ、ムカデをすっかり駆除していいかというと、それは大きな見当違いになる。自分が愛おしく思うみつばちを出発点に、自然の有機的なつながりを深く、根気強く見つめ、見通して行く姿勢が大切だ。そうでなければ、繊細な自然のしくみをいとも簡単に人は日々崩し続けているのだから。
とても前置きが長くなった。でも、この前置きなしに9月のある一週間をBrooklynで過ごし心の確信をもったわたしのことばを伝えることはできない。今回わたしが出会った人々は、都市を出発点に活動を展開している。5月のHK HONEY主宰のMichaelにはじまり、秋にはNYC HONEY FESTIVALに参加し、Brooklynのビルの屋上で広大な有機農場や養鶏、養蜂のプロジェクトを行なっているBrooklyn Grangeの活動を見たり、都市の自然再生プロジェクトにかかわるアマチュア・ナチュラリストのMatthew WillsにBrooklyn橋のたもとにあるThe Marsh Gardenの散策をしてもらったり、この夏Brooklynからニュージャージのアトランティック・ハイランズに移り住んだBrooklyn Homesteader主宰のMeg Paskaのはじめたばかりの農場を見学させてもらった。どれも都市の暮らしの中で始動することに意義を持ち、都心の人々を巻き込み、都市でプロジェクトを持続するところに大きな使命をになっている。
「都市では何もできない」と思い込んでいたわたしに、むしろ都市の可能性をこれらの人々は証明してくれた。自分の小さな思考や想像力をはるかにこえた、彼らの熱意と行動力の次をわたしも行きたいと思う。

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