蜂窩織炎、熱と夏の妄想

|

DSC04783.jpg

2週間ほど前の土曜日、父の片足がひどく腫れて歩けない状態になった。赤くほてってぱんぱんにむくんだ足を見て、これはただごとではないかもしれないと思い、かかりつけの病院に電話をした。救急外来にすぐ来るようにと言われ、なんとかタクシーに乗せて病院へ向かった。乗車したタクシーには運転手さんの出身地が「遠野」と書かれていた。「遠野なんですね」と声をかけると、「はい、ご存知ですか?」と話がはじまった。病院に到着するまでの約20分、岩手や震災のことなど話題が尽きなかった。穏やかな感じのよい人だった。
救急の外来に到着するとすぐに車椅子を用意してくれた。初めて父を乗せた車椅子を押した。まずは点滴をして、血液やレントゲンの検査をした。午前中に着いたのに、治療を終えて帰る頃には19時をまわっていた。一日がかりの検査の結果、診断は蜂窩織炎(ほうかしきえん)で医者は高齢の父に入院をすすめた。昨年、約2ヶ月近く血液の病気で入院をし、その後まだ通院をしているので再入院をひどく拒み、結局連れて帰ることになった。人生一度目の入院ですっかり懲りてしまったらしい。そのため翌日の日曜日も救急外来に行き、抗生物質の点滴を受けた。蜂窩織炎とは初めて聞く病名で、しかも蜂という文字が気になった。皮膚におきる細菌感染だった。血液の病気の治療薬の関係で免疫力が落ちているので、場合によっては感染症は命とりになることもあるらしい。自宅で安静にして患部を冷やす日々が続いている。
ところで、遠野の運転手さんに出会った時、馬を飼う敏江さんのことがすぐに浮かんだ。震災後、2回ほメールで様子をお知らせいただいた。帰ってからすぐに敏江さんに「みつばちの木箱」の本を送る準備をした。本が届くとすぐに嬉しい返事をいただいた。
時空を超えてというタイトルで......。
mistubakoさん 
こちらは、気持ちのいい夕べです。栗の花が今年はいつになく勢いよく咲いています。
『みつばちの木箱』という一冊の本には、やはり、強い力がこもっていますね。mistubakoさんが、みつばちのように、世界と交信しながら精密に作り上げた巣、時間をかけて集めた花粉をぎゅうっと凝縮して構築した、mistubakoさんの巣の形が、ページに刻まれた文字も、文字が組み合わされて意味を成す以前の、なんというか、その表出した形、そのものが現象としてあり、深さや重みや、広がりをもった世界が、私にぐんと迫ってくるのです。mistubakoさんって、すごいなあ、と感じました。
それでは、また、いつか、どこかで。

そして夏の放牧に高原で凛々しい姿をしたジンガロウの写真が送られてきた。「ジンちゃんも無事でよかったね」と、心のなかでつぶやいた。

ここ数日、夕刻の空は秋の兆しのように澄んでいて、満ちみちた月が美しい。燃えるような暑さを支配する太陽から、静かな月がのぼって心地よい風が吹いてくると、空をふと見上げてしまう。こんな月夜の晩は一目散に海辺へ行って、波の音を聞きながらわたしを浄化したい衝動にかられる。本当は素足で砂浜を歩いて、潮風にふかれて、冷たい海の水に足を冷やしていたいはずなのに。心地よい美しい夜だけに、心の底からはもう喜べない地球になってしまったことに悲しみがよけいにこみあげてくる。「もう、3月以前とはちがうのだから」という痛みを感じている。

DSC04782.jpg

DSC04784.jpg