The Pollen Loads of the Honey Bee

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イギリスから"The Pollen Loads of The Honey Bee" (Dorothy Hodges)というタイトルの美しい本が届いた。imagoとyamaさんが教えてくれたのがきっかけで、talenさん情報のAbe Booksという古書サイトから入手することができた。
以前からわたしは花粉の表記方を考えていると、ここで何度も話してきた。1950年代に、みつばちが集めてくる花粉の色をカラーチャートという形でとっくに表した人がいたと知って脱帽している。アーティストであり養蜂家でもあったDorothyは「みつばちは花粉なしには生きられません。花粉を集めて運ぶ姿は、みつばちの活動のなかでも色彩豊かでもっとも魅了されます......」と序文に書いている。みつばちを観察していれば、集める花粉の色に誰もが目を引くだろう。濃淡の黄色、赤やオレンジ、青や紫など想像以上の色数があることにも気づく。みつばちはこんなに美しい仕事をしていると、感嘆と畏敬の念が心の奥底から自然とわき上がってくる。みつばちの活動目的は種の存続のためだけであるがゆえに、わたしからするとよけい芸術的に見えてくるのかもしれない。わたしもこんな風にいっさいの邪念なしに、プロダクトが生み出せたら本望なのにと思う。自分では気がついていない行為が、他者の視線からは輝いて見え、思考や幸福感を与えるということはすばらしいと思えるからだ。
本を開くとほのかに甘い香りがひろがる。錯覚だろうか。制作にあたった著者の努力と辛抱強さは並たいていのものではなかった。みつばちの足につけられた花粉に注目して、昆虫が花粉を集める方法の特徴を観察する傍ら、花粉の色がどの花の種類かを識別するためのカラーチャートを考案し、本の巻末に折り込まれている。時代はもちろんのこと、地域も気候も異なる国で行われたので、今、実際にここで識別に役立つかというと難しい。けれども、チャート化したい衝動とその方法論やプロセスがすばらしいし、実験過程自体が作品的であるとわたしは感じる。長い年月をかけて、観察を続けなければこの結果は生まれてこない。一匹一匹のみつばちの羽をつまんで花粉を落としてくれるのを待ったり、あるいは、ペンナイフや指先で落とすなど収集作業ひとつにも気の遠くなるような配慮が必要だった。花粉集めは花の開花期や天候に大きく左右される。みつばちがもっとも新鮮な花の花粉を巣箱に持ち帰ることができる日は、乾燥した暖かい日なのだ。天候不順でみつばちが巣箱から出てこない日は、花びらの中で花粉の色や状態は刻々と変化していく。人の手で採取した花粉で色の退色の変化も調べている。樹木などの種類によっては、乾いた花粉が太陽光にさらされて退色する場合と、そうでない場合があることもわかってくる。人工的に濃度を決めたはちみつや糖蜜に花粉をつけて、色の変化の記録を残している。みつばちの花粉だんごが人工で作れないかという試みでもあったのだろう。花粉だんごの特性を知る上でも重要なことだ。1日の時間帯によって花粉の色には違いがある。朝はいつも濃度が濃いことを著者は発見している。こうなると一種の花でも花粉の色幅があるために、何度も採取と色のマッチングが繰り返された。高い木などの花の種類は風媒花などもあるので、みつばちが確実に同種から持ち帰った花粉かどうかの適合を、顕微鏡で確認していた。
こうしてさまざまな条件下で花粉の色の変化を知ることの他に、記録のとり方にも一定の条件を考え出していかなければならなかった。チャート用のペレットの作成には白の紙で水彩絵の具を使用したと書かれている。色彩の耐久性に評価の高い12種類ほどの色を選んで使用した。たとえば、カドミウムイエロー、ヴェネチアンレッド、コバルト、パーマネントブルー...など。花粉の色の限定は非常に困難だ。特に野外では背景の空の色によって当然色彩は異なって見える。また太陽光が黄色味を帯びてくる時間帯は色の判別ができない。すでにあみ出されていた、いくつかのカラーチャートシステムの中からA. Maerz and M. Rea Paul : A Dictionary of Colorのシステムを参考にDorothy独自のカラーチャートを作っていった。
この科学的な姿勢とアーティストとしての表現は、花粉の表記法あるいは詩の表現法を探しているわたしの途上に、突如として案内人が現れ、手をさしのべてくれているように思えて嬉しくて仕方がない。

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