波間の揺りかご South African Lullabies

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n˚f˚のpoetペーパーをコラボレーションしたfelipeからチリ巨大地震の5日後に無事を知らせるメールが届いた。心配をしていただけに、音信があってほっとした。彼の報告によるとサンチャゴ市内はそれほど大きなダメージは受けていないこと、そして自宅はテレビとガラスのコップが壊れたぐらいだった。地震勃発時、彼は海辺の木造の小屋でのんびり過ごしていたら、急に小屋がなよって傾いていく光景を目の当たりにしたらしい。残念なことにパタゴニア地方にある祖父の旧式の石造りの家が倒壊してしまったそうだ。それでも、周辺に人災がなかっただけでも幸いなことだ。チリは比較的統治がしっかりとした国なので、順次整備がされて復興にはそれほど時間がかからないだろうと話していた。ハイチの震災に比べたら、僕らは希望が持てると。わたしはそのメールを受けとりながら、ぼんやり津波の映像を見ていた。
ウィリアム・ケントリッジ展で『Tide Table(潮汐表)』というアニメーションを見た。南アフリカ共和国の海岸風景の描写がつづく。潮汐表がクローズアップされ、やがて大波のうねりや集団洗礼を受ける群衆、肥えた牛や骨がむき出しの牛のシーンなどが切り替わっていく。波は自然界に起こる現象だけでなく、植民地時代、病や恐怖、統治体制が人間に脅かす闇と暗礁の象徴としてアレゴリー的に描かれている。映像は暗く哀しい。モノトーンの静けさに、こだまする歌声が喪失感をさそう。チリから直進してくる津波警報と一方で作品化された『Tide Table(潮汐表)』を連鎖するイメージとして思い浮かべているうちに、津波はこれから書きたいと思うモチーフのひとつになりうると感じている。n˚f˚のロゴが持つもうひとつの意味を見つけたように思っている。いつ、どんな形で表出するかはまだ未定だけれど、確かな衝動の波がことばの海原で繰り返し起きている。
ウィリアム・ケントリッジ展で流れていた歌が耳から離れなくて、ケントリッジのアニメーションで音楽制作を担当しているPhilip Millerのことを調べてみた。わたしが耳にした歌は鎮魂歌のように思っていたが、実際は子守唄だった。南アフリカ共和国からわざわざCDを取寄せた。鮮やかな色彩の切手が貼られた封筒が間もなく届いて、今は子守唄を聞きながらこれからはじめる活動のイメージをふくらませている。やがて産声をあげる1冊のために、やさしい子守唄でわたし自身の気持ちを戸惑わず、いい状態に高めていければと願いながら。

*写真の CDの紹介をしておきます。
"THE THULA PROJECT/AN ALBUM OF SOUTH AFRICAN LULLABIES"
このCDはThe Thula projectというところから出ています。主な活動として、南アフリカのさまざまな言語や文化に影響を受けた子守唄を幅広く集めてアーカイブを作っている音楽ベンチャーグループです。CDパッケージに付属する小冊子は、パフォーミングアーティストたちの写真と歌詞の翻訳や個々の歌に対するアーティストの特別な心情をコメントとして残しています。子守唄は両親と子どもの特別なきずなにとどまることはないといいます。歴史や異なる文化を通して幼少期の成長になんらかの形で影響をおよぼしているとThe Thula projectは考えています。南アフリカには口承による伝統的な固有色あふれる子守唄が豊富だといいます。それらを継承していくためにも南アフリカの芸術家、音楽家や作曲家たちによって調査が続けられていて、譜面起こしやレコーディングをPhilip Millerなどのプロデュースにより制作しています。