活字から生まれることば

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築地活字所蔵 活字の母型

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活字が鋳造される風景 内外文字印刷


暮しの手帖社から出版している「暮らしのヒント集」の活版限定本の制作にかかわっている。
板橋にある内外文字印刷という家族で経営をしている小さな印刷所にお世話になっている。この印刷所は岩田明朝の母型をゆずり受け、主に書籍の本文組版ができる環境が残っている稀少な印刷所だ。朗文堂、築地活字と活字文化の保存に熱心な方々が催された会にも何度も参加して、活字の持つ魅力とはなんだろうかと探っていた。こうして、実際に自分の仕事としてかかわれるとは夢にも思っていなかったので、貴重な体験をさせてもらっている。
そもそも活版に興味を持ったのは、何十年も昔のこと。思えば、MacとDTPに初期開拓をはじめた編集プロダクションに入ったことがきっかけだった。わたしが、開館を数年後に控えた企業ミュージアムの企画の仕事で多忙にしている傍ら、編集のチームは鈴木一誌さんや中垣信夫さんのデザイン事務所と日夜、雑誌や本を制作をしていた。そこにふらりとあらわれる美術、建築、思想では屈指の校閲者の富田さんが「活版はよかったよ。DTPから入る前に活版の工程を知ってないとなぁ」と、よくわたしにぼやいていた。まだまだ若かったわたしには、そのよさがどういう意味なのかはまったくわからなかった。古くさいんじゃない?とさえ思っていたからだ。デザイナー、作家、詩人たちに囲まれる仕事を長年つづけているうちに、わたしは活字の持つ力についてもっと知りたくなったのだ。
リニューアル前のみつばちの木箱で『文字の母たち』(港千尋著・インスクリプト出版)のことを書いた。港さんは、パリ在住の頃、フランスを中心にヨーロッパのテクノロジーアートの情報を毎月送ってもらう仕事を通じての知り合いだった。この仕事からすっかり離れて、書店である日この本を見つけて、すぐに購入した。わたしの『みつばちの木箱』のコンセプトは活版で印刷をしたいと考えていたからだ。わたしはこの数年、ことばを生み出すことを個人の活動にしている。ことばとことばの組合わせで文脈をつくっていく制作過程でさまざまな実験を試みている。それは、まだ諸先輩の方々から学んだ事柄のほんの一歩かもしれない。けれども、わたしが生きていること=ことばを切ったりつないだりしていきたい ということなのだ。造的的に美しいと感じる文字を使いたいから、文字から手がかりをさぐる場合もある。文脈が先にあって、それを象徴的に切りとるために、自然の中へでかけていったり、古い文献をあさったり、祖父や祖母の足跡をたどってみたりする。そうして迷いながら決定的となることばを生み出す瞬間もある。感覚的にすぐにキーワードが沸いてくることもある。それらをカードのように散らばして、偶発的に組合わせることもある。つくった文脈をあえて意味不明に置き換えることもする。わたしにとってのことばとは体感を経験化し吟味して配列を考え形にしていくことのように思っている。この生み出す決定的瞬間が、金属活字の持つ熱による鋳造やインクをつけて凸部分を刷り出す計り知れない面倒な作業と同じ重さを感じるのだ。
一度、水仁舎の北見俊一さんの話を聞いたことがある。工房にもかけつけたいが、なかなかその機会を得ていない。本をつくるという原点を見つめて1冊の本を編集、デザイン、印刷、製本の工程などすべてひとりで行っているすごい方だ。制作工程を全部見てまわることを条件に、小さな出版社で仕事をしていたという。自分でやることによって、ダイレクトに作りたい本ができあがるという思想を持っている。わたしはその話を聞いてから、自分の仕事のスタイルを少し変えて、できるだけ現場に行くことを心がけるようになった。もちろん分業は大切なことだが、全行程を知らなければ、部分は見えてはこない。幸いにも活版限定本の制作にかかわれることで、製本所の工程も初めて見ることができた。活字とことばが生まれる関係に一番関心を持ちながらも、1冊の本になるまでのことを今学んでいる。まずは職人の掘る種字にはじまり、活字を生み、文字を拾い、それを組んで、運び、印刷機に組み付けをし、刷り、製本へと移行する。思考し記号ということばを持った人間が記録をするとはどれだけ多くの職人の技を必要とし、労働と時間がかけられているものなのか。このことを人は文化というかもしれないが、携わる現場は労働ということのほか思いあたることばはない。

●制作中の『活版限定本 暮らしのヒント集』の作業工程を下記の期間、企業出店で参加します会場でご覧いただけます。ぜひ、他のアート作品などの鑑賞とあわせて、ご来場ください。
2009年5月2日から11日まで
CCAAアートプラザ/ランプ坂ギャラリー
東京都新宿区四谷 4-20 四谷ひろば(旧四谷第四小学校)A館
詳しくはこちらから 活版凸凹フェスタ 2009

●また5月25日発売の『暮しの手帖』40号で、編集者がまとめた特集記事が掲載される予定です。詳しくはそちらをお読みいただければ幸いです。

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森修治さんの組版 内外文字印刷にて

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校正刷り 内外文字印刷にて


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製本所見学 河上製本所にて

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活字地金彫刻師 清水金之助さんの実演